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 どこの町かは云わないことにするが、ある町に、フォーマ・ペトローヴィッチ・ぺぺルマルジェーエフという名の男が住んでいた。中背で、簡素な目立たない格好、大体はトルストイ風な灰色の上着と藍色のズボンで歩き、丸い鉄製の眼鏡を鼻にかけ、髪は分け目で撫でつけてあり、口ひげも顎ひげも剃っていて、それはもう完全に目立たない男であった。

 私は彼が何をしていたかさえ知らない。郵便局かどこかに勤めていたか、または製材所でなにかやっていたかもしれない。知っているのはただ、彼が毎日5時半に家に帰ってきたことと、それからソファに横になって休み、一時間ほど眠ったこと。それから起きてきて、電気ポットでお湯を沸かし、穀粒パンをつまみにお茶を飲んだことだけである。

 

19301931